心は憂い夕を吐いて

つらつら綴る。

泣き腫らした卒業前夜

3月初旬、高校の卒業式を控えた前日の晩。中高5年間付き合っていた彼氏に振られた。しかもメールで。

今から10年程前のことだ。

あれから色々なことがあったのに、この時期が来るとやはり思い出す。

今思うと、それはそれは健全なお付き合いだった。学校では周囲に冷やかされるのが照れ臭かった。廊下ですれ違う時*1、互いに気がついていても、気にしていない風を装った。そのくせ一緒に通っていた地元の学習塾では授業中も構わずお喋りをし*2、「どういうつもりでここに来ているのか」と講師に咎められた。たしかに、御尤もだ。そうして怒られたことをネタにして、いつも一緒に帰った。手を繋いだり、たまにはキスをしたり。

高校3年の正月明け、センター試験があった。プレッシャーに弱い私はあまり成果が残せなかった。センターでこんな点数*3では本命に受からない。当時の私はここで心が折れて諦めたのだと、大人になった私は知っている。実際、その後の勉強は身が入らず、受験した某国立大には前期も後期も見事に滑った。そして点数開示を請求することは、惨めさを上書きするようなものだと分かるほどには、圧倒的力不足で、落ちた。

しかし彼はなんとそんな私よりも出来が悪かった。センター試験後、毎日泣いていた私のそばで、彼は何も言わなかった。ただ黙々と勉強をしていた。もうダメだ、絶対受からない。そう横で喚いている彼女の横でよく勉強が出来たなと思う。よく、怒らないでいてくれたなと思う。

中学の頃の私たちはそれなりに成績が良く、生徒会の役員を務めるような、なんというか「先生の覚え麗しいタイプ」だった。そのまま、地元では名の通った、いわゆる進学校に入学した。

しかし高校は大体同程度の学力層が集まるわけで、その一定層の中にあって私たちは飛び抜けて出来るわけではなかった。それでも沈み込まないよう、膨大な課題を前に毎日勉強し続けた。

きっと私よりも彼の方が先に埋もれたと思う。ある時から彼は努力を辞めたのか、あるいは努力が追いつかなくなった。赤点を取って追試を受けていたし、補習を受けていたこともあった。

そんな彼を、私は残念に思った。賢い人が好きだったのだ。私は知らないことを知っている人が魅力的に見えるのだ。そんな賢い人が、私を好きでいてくれることが好きだったのかもしれない。でも彼は埋もれてしまった。

一方で優越感もあった。少なくとも、私は彼よりも出来ている。まだ、追いついている。

そんな気持ちが透けて見えていたのかもしれない。彼の横で泣いていたあの頃、「そんな落ち込まなくても、俺より出来てるじゃない」その言葉を欲していたことが。

でも彼は何も言わなかった。ここが人生での頑張りどころであるかのように*4、脇目も振らず懸命に勉強していた。それでも、彼も第一志望には受からなかった。

卒業前夜に彼からメールが来た。いつもの他愛ない内容だと思ったら、思いもよらない言葉が書いてあった。

「別れてください」

いつか来ると思ってたことがついに来たな、と冷静に状況を俯瞰する私がいた。

頑張っている時に足を引っ張るような奴は私だって付き合いたくない。まして、相手が自分を見下した上で足を引っ張ってくるなら尚更だ。彼は先の言葉に続けてこう書き添えた。

「あなたならもっといい男を捕まえられる。」

そうなのだ。青春の只中にある数年間を共に過ごしたこの人が、次第に理想の男性ではなくなってしまったと確かに思っていた。彼はやっぱり気づいていたのだ。

でもそういう大事なことってメールで言うもの?私たち何年付き合ったと思ってるの?何でも話せる親友のような恋人だった*5。いきなり別れを告げられて、いい男を捕まえられると言われても。いい男って?その言い方はズルかった。何も気付かないフリをして、その言葉で最後に突き放すのは。

数年付き合って振られた。しかもメールで。しかも卒業式の前日に。

明日はきっとみんなでたくさん写真を撮るはずだ。でも目が腫れて酷いものだろうな。卒業式に涙は付き物かもしれないが、流石に登校前に泣き腫らしている人はいないだろう。恥ずかしいな。

彼氏と親友を同時に失った喪失感。そしていつしか心の奥底で見下していた、それに気づいていても何も言わなかった、優しい彼に振られたことで傷ついたプライド。これだけ長く付き合ったら、いつかは結婚するのかもと、女子高生の私は都合よく考えていた。でもその未来はもうない。全部自業自得だった。

泣こう。卒業式の明日もきっと校舎のどこかで彼とすれ違うだろう。気にしていないフリをするんだ。でも泣き腫らした私を見て、少しでも彼が何か感じてくれたらいい。

 

あれから10年程経ち、その間彼から連絡が来ることもあった。復縁を望んだ連絡も。文脈から、良い関係のまま当時を終えられたと向こうは考えているらしいこと*6、振るには惜しい女だったと思っているらしいこと*7が伝わり、その時少しだけ安心した*8。でも返事はしなかった。また彼に振られて傷つくのが怖かった。ここ数年連絡がないと思ったら、彼は職場の人と結婚したらしい。

私も大学時代から付き合っている彼がいる。きっと結婚すると思う。

 

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今週のお題「卒業」

 

*1:久しぶりに「廊下」という単語を使った

*2:同じ学校の生徒が少なかった

*3:あんなに1点を追い求めていたのに、今となっては点数すら覚えていない

*4:実際そうなのだが

*5:と思っていたのはきっと私だけだったんだろうけど

*6:少なくとも数年後に復縁を望む程度には

*7:実際、大学に入って色々女磨きし、だいぶ垢抜けたと思う。まあそれも自分で言うのは何だが

*8:もしかしたら周りに恋愛対象がおらず、「元カノは俺のことまだ好きだろう」的な、所謂安牌に思われた可能性は十二分にある。この一文に注が多いのは自覚している