心は憂い夕を吐いて

つらつら綴る。

地中美術館 / もう一度行きたい場所

久しぶりにお題を。

 

挙げるとすれば地中美術館だ。瀬戸内海に浮かぶ島の一つ、直島にある。

 

benesse-artsite.jp

 

  • 1回目

初めて直島に行ったのは2年前の1月。旅行当日に決めた弾丸一人旅行の行き先だった。だが実はそもそも、私の当初の行き先は直島ではなかった。悪天候の為、搭乗予定の便が欠航になることが当日の朝判明したのである。国際線のチェックインに間に合わせるため、前日から空港のホテルに泊まり、出国する準備万端だった私は途方に暮れた*1。パスポートもある。冬服も夏服もある。正直何処にでも行けただろうと今なら思う。だが落ち込む気分を持ち直し(これに一番時間が掛かった)、フライトをキャンセル、個人手配していた諸々の予約のキャンセルを電話やメールで*2済ませた時には目ぼしい国際便はもう出てしまっていた。そんなこんなでやけくそで選んだのが直島だ。私は当日に行き先を決める自由度が高い旅行よりは、どちらかといえば綿密に計画を練った旅程を、その予定の通りに楽しみたい性格だ。そんな私が衝動的に飛行機に飛び乗るのだから、余程やけくそだったのだ*3。ともあれ、こうして地中美術館豊島美術館を中心に、瀬戸内のアートを巡る旅行を始めた。

結果、やはり地中美術館豊島美術館*4は圧巻だった。1月の、大雪の降る平日。そんな日にわざわざ島に来る観光客は少ないようで、美術館も人が疎らだった。モネやタレル作品を独り占めできる瞬間があった*5。あの柔らかい真っさらな空間でモネと1対1で向かい合う贅沢。

カフェからの景色も記憶に残っている。降り頻る大雪と瀬戸内海。海は天候が変わりやすいのか、5分もすると端からすっかり晴れ渡り、海に日が差す様が美しかった。次に来るときには大切な人と見たいなと思う景色だった。

 

  • 2回目

2回目は昨年の9月。前回が弾丸であまり下調べをしていなかったこともあり、だいぶ、調べた。地中美術館は完全予約制になっていた。前回の訪問の後、改めて調べていくなかで、何としても参加したいと思っていたのが、金曜に開催されるナイトプログラムだ。夕方にチケットを取り、閉館前に美術館を楽しんだ*6

夕方の美術館は前回ほどではないものの、昼間の島が人で賑わう様子を思うと比較的人が少ないように思えた。自然光を取り入れた夕方のモネ室は薄暗かった。晩年のモネは目を患っていたともいうし、ほんのりと暗いのがしっくり来るような気もした。

ナイトプログラムまでの間に再びカフェに寄った。暑い中、1日歩き回ったので瀬戸内レモンティーが体に染み渡った。開かれた景色はやはり夏とは違い、海がキラキラと光っていた。船が左から右へ、横切っていくのを眺めているうちに少しずつ日が暮れ始めた。

そして18時の閉館になり、暗く静まり返った美術館を歩いた。開館中に見たタレルの「オープン・スカイ」を眺めるのがナイトプログラム。作品から開かれた空が、日没とともに群青から黒、そして真っ黒に変化する。そうしてそれ以上夜の色が変わらないことを前提に、今度は照明が変化していくのだ。真っ黒だった空が照明によって色が変わるように見えるのが面白かった。やがて目が慣れてくると、切り取られた空も全く変化が無いわけではないことにも気付く。風に雲が流されていったり、鳥が横切ったり、遠くで雷が光ったのか僅かに空が明るくなったり*7。言葉ではうまく説明が出来ないが、本当に素晴らしかった。前回は特に印象が無かったこの作品への見方がガラリと変わった。

 

社会人になると、例えば私の職業では、旅行をしずらい。そうなるとまとまった休みが取れた時の行先選びには慎重になる。そんな事情があって、同じ土地を訪れることは、これまであまりなかったと思う。限られた時間に知った土地を訪れるのは、なんとなくもったいないような気がして。でも直島は、地中美術館は何度でも行きたくなる場所だ。行くたびに島や作品の印象が変わる。当然、それらが変化する訳ではないので、私の中の何が変わっているということなのだろう。あの空間でそのことに気づくと、心が洗われるような気分になるのだ。今度はあの作品に、あの景色に何を感じるのか、それを知りたい。そうした思いが、また私を直島へ連れていくのかもしれない。

 

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お題「もう一度行きたい場所」

*1:実はカンボジアに行く予定だった。大寒波に伴う大雪の影響で搭乗する飛行機が日本に到着しなかったらしい。元々キツめの旅程だったのでキャンセルせざるを得なかった

*2:慣れない英語で

*3:それでも全く無計画では落ち着かないので、行き先を決めてすぐ、直島内のゲストハウスを抑えに掛かっている

*4:豊島美術館もかなり好きなので別記事でいつか書くと思う

*5:正確には、もちろん学芸員さんがいる。ちなみにウォルター・デ・マリアは残念ながら全く独り占めは出来なかった

*6:直島に範囲を広げると、前回は予約を取っていなかった家プロジェクト「きんざ」も2回目に必ず訪れようと決めていた

*7:2回目の訪問も比較的悪天候だった